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東京高等裁判所 昭和24年(新を)1282号 判決

被告人

武井三郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二月に処する。

但し本判決確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

検事の控訴趣意第一点乃至第三点について。

原判決が所論のように、本件公訴事実中、第一記載の被告人が長野県第三区から立候補した民主党候補者小林運美として当選を得しめる目的を以て一乃至四の当選運動を為した事実を認定したが第二の記載の被告人が昭和二十四年一月二十四日朝頃、右小林候補者の当選したことを知るや同候補者の当選に関し挨拶する目的を以て被告人自宅前電柱に、同候補の当選御礼と墨書した書面を貼付して之を掲示し、以て政治上の活動をしたものであるとの事実については昭和二十二年勅令第一号第十五条の政治上の活動とは覚書該当者の政治力を発揮して他に影響を及ぼす政治上の活動を指すものと解する処、被告人が、相馬高芽の依頼に依る幅七寸長さ二尺の大きさの紙に当選御礼小林運美と墨書し之を自宅前の電柱に貼付した事実を認め得るが被告人の署名のない右の書面を以て被告人が挨拶しているとは一般には寧ろ解し難い処であるばかりでなく、仮令被告人が小林候補のため同候補の当遠の謝意を表して居るものと解するもそれだけでは何等被告人の政治力を発揮する行為と謂うことは出来ないとして無罪の言渡をしていることは所論の通りである。

よつて公訴事実第二記載の当選御礼の書面を掲示した行為が、所論のように第一記載の選挙運動と共に本件公訴に係る政治上の活動事実の一部を為すものであるか否かについて案ずるに、昭和二十二年勅令第一号第十五条第一項に所謂政治上の活動とは同項に例示されている公選による公職の候補者の推薦届出、選挙運動の外政府、地方公共団体政党その他の政治団体又は公職にある者の政治上の主義、綱領、施策又は活動の企画、決定に参与し、これを推進し、支持し、若しくはこれに反対し、あるいは公職の候補者を推薦し、支持し若しくはこれに反対すること等によつて現実の政治に影響を与えると認められるような行動をすることを言うものと解するを相当とする(最高裁判所昭和二十三年(れ)第一、八六二号昭和二十二年勅令第一号違反事件、同年六月十三日大法廷判決参照)。而して選挙の当選又は落選に関し選挙人に挨拶する目的を以て為す行為は、衆議院議員選挙法第百条の二等の法令を以て選挙法に於ける選挙運動の制限に服しているものであつて候補者自身がこれを為す場合は勿論、候補者以外の者がこれを為す場合は公職の候補者を推薦支持し、以て現実の政治に影響を与えると認められる行動であつて、右第十五条第一項の選挙運動に該当し、従つて同法条に所謂政治上の活動に該当するものと解すべきものである。原判決は前記の如く被告人が他人の依頼によるとはいへ幅七寸長さ二尺の大きさの紙に当選御礼小林運美と墨書し之を自宅前の電柱に貼付した事実を認定したのであるから、右事実は右選挙法令に所謂選挙人に挨拶することを目的とする選挙運動であり、従つて前記法条に所謂政治上の活動と認定さるべきものであつて、これが他人の依頼にもとづいたものであつたこと、右書面に被告人の署名がなかつたこと、被告人が挨拶していると認められない等の事実があつたとしても右書面を貼付した行為が被告人の行為と認められる以上は右認定は左右されないものと解すべきである。

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